全身性エリテマトーデス
どんな病気?
全身性エリテマトーデス(SLE)は全身のさまざまな臓器、特に皮膚・関節・血液・腎臓に影響をもたらす、慢性の自己免疫性疾患です。SLEは長い間続く慢性病です。自己免疫性とは、細菌やウイルスなどから自己の体を守る免疫システムが破たんし、自分の組織を攻撃する状態を意味します。
全身性エリテマトーデスという名前がついたのは20世紀の初めでした。全身性とはさまざまな組織に影響するという意味ですが、ループスという言葉はオオカミという意味のラテン語で、患者の顔の蝶形紅斑がオオカミの顔にあ る白い斑点を医者に連想させたことに由来しています。エリテマトーデスとは、ドイツ語で赤という意味で、赤い皮疹に由来するといわれています。
どれくらい患者さんがいるの?
SLEは子どもでは年間100万人に5人の割合で発症するまれな病気です。5歳以前に発症することは非常にまれで、思春期の前に発症することもそれほど多いものではあ りません。
ある特定の年代、具体的には15歳から45歳までの出産可能な時期の女性に多い病気です。男女比は1対9と女性に多い病気です。
SLEは世界中でみられる病気で、特にアフリカやアメリカ・スペイン・アジア・アメリカインディアンに多いとされています。
病気の原因は何?
SLEの正確な原因はわかっていません。わかっていることは、SLEは自己免疫異常による病気で、免疫システムが自分と自分でないものとの区別を伝える能力を失っていることです。免疫システムが誤って自分自身の正常な細胞に対する自己抗体を作り、自分の正常な細胞を破壊します。その結果、自己免疫反応は特定の臓器(関節・腎臓・皮膚など)に炎症を起こすことになります。炎症を起こすと、影響をうけた体の部分は熱をおび、赤く腫れて、時には痛みを伴います。このような理由でSLEの治療は炎症をおさえることを主目的に行われるのです。
さまざまな遺伝的危険因子が、異常な免疫反応をおこすと考えられる種々の環境因子と結びついていると考えられています。SLEの場合は思春期におけるホルモンバランスの不均衡をはじめ、日光刺激のような環境因子・ウイルス感染症・特定の薬剤などにより引き起こされるということが知られています。
遺伝的なもの? 予防できるの?
SLEとは遺伝的な病気でないので、親から子供に直接遺伝するということはあ りません。子供に遺伝しないといわれていますが、親から受け継いだSLEになりやすい体質があ るようです。それらの体質がかならずしもSLEになるということはあるませんが、可能性はあ るようです。
SLEの子供たちには家族に自己免疫性疾患をもっている人がいることは決してまれではあ りませんが、同じ家族内にSLEの子供が2人いるということは非常にまれと言われています。
なぜ私の子供はこの病気になったの? 防ぐ方法はないの?
SLEの原因はわかっていません。しかし、遺伝的な体質と環境的な因子が引き金となってこの病気をおこしている可能性があ ります。SLEを引き起こすといわれている、遺伝的・環境的因子を近い将来はっきりさせなければなりません。引き金や病気を悪化させるような状況(例えば、日焼け止めを使わずに日光に当たること・ウイルス感染症・ストレス・ホルモン・薬)から回避させるべきです。
伝染するの?
SLEは伝染病ではありません。感染症のように人から人へとうつるものではあ りません。
主な症状は?
この病気はゆっくりと進行していきます。新しい症状がでてくるのに数週間‾数ヶ月、場合には数年かかるといわれています。特定の症状はなく、疲労・倦怠感などが子供のSLEの初発症状です。多くのSLEの子供たちが間歇的もしくは持続的な発熱があ り、体重減少・食欲低下などがあります。
時間がたつにつれて多くの子供たちは体の数カ所に特定の症状を訴えはじめます。皮膚や粘膜症状はよくみられ、皮膚にはさまざまな発疹が出現します。光線過敏(日光にあ たるとできる発疹)によるもの、鼻や口の内側の粘膜の潰瘍などが出現します。典型的な蝶形紅斑は鼻と頬をつなぐ発疹で3分の1の患児にみられます。いつもよりも髪が抜けやすくなったり、寒くなると手が赤くなったり白くなったり青くなったりします(レイノー徴候)。また関節腫脹や拘縮・筋肉痛・貧血・打撲によりすぐ腫れる・頭痛・けいれん・胸痛を訴えます。SLEでは時々腎障害をおこすこともあ り、腎臓に症状がくることはこの病気の重大な問題です。
腎障害の最も一般的な症状は、高血圧と尿潜血と足やまぶたのむくみです。
全ての子供に同じような症状がでるの?
SLEの症状は非常にいろいろなものがあり、個人差があるためそれぞれの子供たちで症状も異なります。SLEになり始めの時期でも、病気が進行している時期でも全ての症状は起こりえる可能性があ ります。
子供と大人で違いがあ るの?
一般的に子供と思春期のSLEは大人と似ているところがあります。しかし、子供の場合、大人よりも急激に変化し、大人と比べて症状が悪化するといわれています。
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どうやって診断をつけるの?
症状(例えば痛み)、前兆(例えば発熱)、検査結果を組み合わせ、かつ他にあ てはまる病気がないとされたときにSLEと診断されます。SLEと他の病気を区別するために、アメリカリウマチ学会によって11の診断基準がもうけられています。
これらの診断基準はSLEの患者さんでよくみられる症状と検査異常からなっています。正しくSLEと診断するために、SLEを発症してから、これら11項目のうち少なくとも4項目以上の基準をみたしていなければなりません。経験のあ る医師は4つ以上症状を満たしていなくてもSLEと診断することが可能です。これらの診断基準とは、
1)蝶形紅斑:鼻から頬にかけての帯状の赤い皮疹
2)光線過敏:日光によって肌が過剰に反応することです。普通、太陽にあ たった肌だけが刺激されますが、服で覆われた部分にもおこります。
3)円板状皮疹:顔、頭皮、耳、胸、腕におこるうろこ状のコイン形の皮疹です。これらは瘢痕として残ります。円盤状の病変は皮膚の黒い人種におきやすいとされています。
4)粘膜潰瘍:口や鼻におこる小さなはれ・ビランです。普通痛みはあ りませんが、鼻の潰瘍からは鼻血がでることがあります。
5)関節炎:SLEの大部分の子供でみられます。指、手首、肘、そのほかの腕や足の関節に痛みや腫れがあ ります。痛みは一定の場所ではおこりません。どういうことかというと、あ る関節から他の関節へと痛い場所が移動したり、左右同じ関節を痛がったりすることがあ ります。SLEの関節炎は普通、変形はしないといわれています。
6)漿膜炎(胸膜炎・心外膜炎):胸膜炎とは肺を覆っている胸膜の炎症です。心外膜炎とは心臓を覆っている心膜の炎症です。これらの繊細な組織が炎症を起こすと、心臓や肺のまわりに水が貯まってしまいます。胸膜炎は特に、呼吸をするときに痛みが強くなるような胸の痛みが症状です。
7)腎障害:腎臓の障害は軽いものから非常に重症なものまでありますが、SLEのほとんどの子供たちにみられます。はじめは普通無症状で、尿の検査や血液で腎臓の機能の評価をしなければみつかりません。重い腎臓の障害をもった子供たちは尿に血がまじったり、特に足の指や足にむくみが生じます。
8)中枢神経障害:中枢神経障害が出ると、頭痛・痙攣のほかに集中力や記憶力の低下・気分のむら・うつや精神病などの神経症状がみられます。(思考や行動をつかさどる重要な部分には影響しません)。
9)血液異常:血球の障害は自己抗体によって血液の細胞が攻撃されることです。赤血球(酸素を肺から体の他の組織へ運ぶ役割)を破壊する機序はいわゆる溶血とよばれ、溶血性貧血になります。この破壊は比較的ゆっくりか、とても急速に進行し、緊急を要する場合もあ ります。白血球数の減少は、白血球減少症とよばれSLEではめずらしくあ りません。血小板数の減少は、血小板減少症とよばれます。血小板数の減少した子供は皮膚に簡単に打撲のあ とを作ったり、消化管・尿路系・子宮・脳などのさまざまな部位で出血を起こすことがあ ります。
10)免疫異常:免疫機能の異常によりSLEの指標となる抗体が血液の中にみられます。
a)抗DNA抗体というのは細胞の中の遺伝物質を攻撃する自己抗体です。SLEの初期にみつかります。この検査はよく繰り返し行われます。なぜなら、SLEの病勢が強いときに抗DNA抗体は増加していて、病気の状態を評価するのに役立つからです。
b)抗Sm抗体は、初めてこの抗体が血液中に出てきた患者さんのスミスさんにちなんでつけられました。これらの自己抗体はSLEのほとんどの人にみられ、診断をつけるのに役立つことがあ ります。
c)抗リン脂質抗体が陽性であること(付録1参照)。
11)抗核抗体陽性:抗核抗体は細胞の核に対しての自己抗体です。SLEのほとんどの人にみられます。しかし、この検査はSLE以外の病気でも陽性になることがあ り、ANA試験は健康な子供の5%に弱陽性がでることがあります。
重要な検査は?
採血の検査はSLEの診断をつけ、内臓障害が起こっているかどうかを調べることができます。通常の血液検査や尿検査は病気の活動性や重症度をモニターしたり、どの治療があ っているかというのを決めるのに重要な役割を果たしています。SLEの活動性を調べるにはいくつかの検査があ ります。
1)通常の臨床検査は、SLEがいろいろな臓器を巻き込んでいるかどうかを調べています。
血沈・CRPは炎症の指標になります。SLEではCRPは正常値です。しかし血沈は上昇しています。CRPが上昇している場合はなんらかの感染症がからんでいる可能性があ ります。
血算は貧血の指標や血小板や白血球の減少をはかる指標となります。
血清蛋白の電気泳動はガンマーグロブリンの増加(炎症を増進する)やアルブミンの低下(腎機能)の指標になります。
通常の生化学の検査は腎機能(血清尿素窒素・クレアチニン・電解質)、肝機能の検査、もし筋肉にも病気がおよんでいる可能性があ るなら筋酵素の検査を行います。
尿検査はSLEの診断で最も重要で、診断後のフォロー中でも腎臓に病気が及んでいるかを評価することができます。通常SLEそのものが安定していると時でも、良い指標になります。検尿は腎臓の炎症のさまざまな指標になります。尿に血が混入したり、大量の蛋白が混入する時などです。時にはSLEの子供さんには24時間蓄尿をしてもらうことがあ ります。こうして腎機能障害を早期に発見することができるのです。
2)免疫検査
抗核抗体(ANA)(診断参照)
抗DNA抗体(診断参照)
抗Sm抗体(診断参照)
抗リン脂質抗体(追加1参照)
これらの検査は全て採血で測定するものです。補体とは細菌を破壊し炎症や免疫反応を制御するような血液中のタンパク質です。特定の補体(C3とC4)は免疫反応によって消費され補体の低下は病気の活動性があ るとき、特に腎臓に障害があるときにおこりやすいです。
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他にもからだのさまざまな部分に対してSLEがどれだけ影響しているかという検査は今では可能になってきています。腎生検(臓器のほんの一部分をとってくる)はしばしば行われます。腎生検はSLEによる影響がどの程度まで進行しているかという貴重な検査であ り、正しい治療方針をたてるのに非常に役立ちます。また皮膚生検も皮膚の血管炎や円板状皮疹(紅斑)やさまざまな皮疹の鑑別をするのに役立ちます。その他の検査としては胸部レントゲン写真(心臓と肺をみる)や心電図、心エコー、呼吸機能検査、脳波、MRI,その脳の検査、可能ならばさまざまな組織の生検などがあ ります。
治療できるの?なおるの?
現在ではSLEを完治させることはできませんが、SLEの多くの子供たちで治療が成功しています。治療の目的は、症状に対する対処だけでなく症状が出現するのを予防することです。
SLEが最初に診断されたときは普通、とても症状がでています。この段階で病気をコントロールし、臓器へのダメージを防ぐために多量の薬が必要となるでしょう。多くの子供たちは治療によってSLEをコントロールしており、わずかな治療、または治療は必要ないくらいまで病気の勢いが落ち着きます。
治療ってどんなことをするの?
SLEの症状の大部分は炎症によるものなので、治療はその炎症をとる目的で行います。たいてい4種類の治療がSLEの子供たちに行われます。
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs): NSAIDsは痛みと関節炎に対して使用されます。通常短い期間だけ使うことになっており、関節炎が改善するとともに薬の量を減らしていくことになっています。これらの薬にはアスピリンなど、様々な薬があ ります。アスピリンは現在抗炎症作用として使われること稀になりましたが、抗リン脂質抗体をもつ子供に対して血液の過凝固(固まりすぎ)を予防する目的で広く使われています。
抗マラリア薬 : 抗マラリア薬は硫酸ヒドロキシクロロキンがあります。光線過敏による皮疹、例えば円盤状や亜急性のSLEの皮疹に対してとても効果があ るとされています。これらの薬は効果がでてくるまでに数ヶ月かかることがあ ります。SLEとマラリアとの関連性は知られていません。
副腎皮質ステロイド : 副腎皮質ステロイドにはプレドニゾンやプレドニゾロンがあ ります。炎症や免疫系の活動を抑制するのに使用されています。SLEのメインの治療になります。初期の病気のコントロールには数週間から数ヶ月間の連日の副腎皮質ステロイド投与は不可欠です。そして、たいていの子供たちが数年にもわたり薬を必要とします。初期の副腎皮質ステロイドの量は病気の重症度と臓器へ障害によって決められます。経口、または経静脈的な副腎皮質ステロイドの大量投与は重度貧血・中枢神経障害・重度な腎障害などに対して行われています。子供たちは副腎皮質ステロイドを使いはじめてしばらくすると健康になり、エネルギーに満ちあ ふれます。
病気の症状がコントロールされたら、子供の健康状態をみながらステロイドの量を少しずつ減量していきます。ステロイドの減量はとても重要で、症状や検査の結果をみて病気の活動性がおさえられていることを確かめながら減量していきます。
思春期の子供たちはステロイドを内服したがらない傾向にあったり、勝手にステロイドの量を自分で増減する傾向があ ります。おそらく副作用が嫌であったり、気分にむらがでたりするからです。子供たちと両親にステロイドがどのような働きをもっているのか、なぜいきなりやめたり・量をかえたりすることが非常に危険であ るのかをよく理解してもらうことが重要です。ステロイド(コルチゾール)は普通、体の中で作られます。治療が始まると、体は自分自身でステロイドの産生を行うことをやめてしまい、副腎は働かなくなり、なまけてしまいます。もし、ステロイドがあ る期間使用されていたら、いきなり中止するとステロイドの補給が突然とまってしいますが、しばらくは十分なステロイドを体内で作ることができなくなります。その結果、コルチゾール不足で生命が脅かされるような危険にさらされてしまいます。ステロイドの急激な減量も同様の症状を招く危険があ ります。
免疫抑制療法 : 免疫抑制療法はアザチオプリンやサイクロホスファミドなどで、副腎皮質ステロイドと異なる機序で働きます。免疫抑制剤は炎症を抑え、免疫反応をおさえようとします。これらのくすりはステロイドのみではSLEをコントロール出来ない場合や、ステロイドで非常に重大な副作用をおこした場合や、併用することがステロイドのみで治療するよりも効果があ ると考えられた場合に使用されます。
免疫抑制剤はステロイドの代わりではありません。サイクロホスファミドやアザチオプリンなどの免疫抑制剤そのものを併用することはあ りません。重大な腎障害やほかのいろんな合併症をともなうSLEの子供たちにはサイクロホスファミドの注射での投与が行われます。
投与方法としてはサイクロホスファミドを静脈より大量投与します(通常の投与量の約10倍‾15倍量)この治療は外来、または短期間の入院にて行います。
生物由来の薬 : 生物由来の薬は特異的分子により自己抗体の産生をおさえます。まだSLEでは実験的にして行われておらず、治験の段階となっています。
自己免疫疾患のなかでも特にSLEはよく研究されています。将来的には免疫機構をおさえることのない、もっとよい治療をみつけるように炎症や自己免疫システムを解明しようとしています。最近では、SLEに関連した多くの進んだ治療が研究されています。新しい治療を試みたり、小児のSLEの特徴を理解してより良い研究の発展をめざしています。
この進んだ研究が小児のSLEの明るい未来をもたらすことでしょう。
治療による副作用は?
SLEに使用されている薬はとても効果のあるものですが、さまざまな副作用があ ります。(詳しい副作用の説明は投薬の章をみて下さい)NSAIDsは胃の調子を悪くする副作用があ ります(食後に内服しなければなりません)、稀ではあるが腎臓や肝臓の機能異常が出ることがあ ります。
抗マラリア薬は目の網膜に影響を及ぼすことがあ るので、眼科医に診察をしてもらう必要があります。
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ステロイドは短期間投与でも長期間投与でもさまざまな副作用があ ります。大量のステロイドを投与した場合や投与期間が長期に及んだ場合は、副作用が出現する危険性が高くなります。
ステロイドのよくみられる副作用としては
外見の変化(例えば、体重増加・頬がふっくらする・体毛が濃くなる・妊娠線のような皮膚線状がでてくる・にきびができやすい)です。体重増加は低カロリーダイエットと運動でコントロールすることができます。
結核や水痘(水ぼうそう)などの感染の危険が増えます。ステロイドを内服しているお子さんは水痘にかかったらできるだけ早く医者にかからなければなりません。水痘に対する内服薬で治療を行わなければなりません(抵抗力が弱まっているため)。
消化不良や胸やけなど胃腸の問題もあります。これらは抗潰瘍薬で治療します。
高血圧
筋萎縮(イスに上ったり、イスから立ち上がるのが困難となります)が起こることがあ ります。
糖代謝障害が起こることがあります。もし糖尿病になりやすい体質なら頻度が増えます。
気分が沈んだり、明るくなったりし易くなることがあります。
目は白内障になったり、緑内障になったりすることがあります。
骨がもろくなることがあります。運動をしたり・カルシウムの多い食事やカルシウム・ビタミンDをとることによって予防します。予防は大量のステロイド療法を開始したらすぐに行うべきです。
成長障害が起こることがあります。
ステロイドの副作用のほとんどは可逆的で、薬の量を減らしたり、中止したりすると副作用はおさまるということを知ることが重要です。免疫抑制剤は重篤な副作用があ り、この薬を飲んでる子供たちは体調をしっかり管理しなければなりません。免疫抑制剤の副作用については薬の欄をご参照ください。
治療はどのくらいかかるの?
病気が持続する限り治療を続ける必要があります。最初の数年は非常に困難ですが、一般的にはSLEの子どもの多くが、最終的にはステロイドから完全に離脱することができると言われています。しかし、少量のステロイドを長期間持続投与することで再燃を防ぎ、病気をコントロールすることができます。大多数の患者さんでは病気がひどくなる危険を冒すよりも、むしろ少量ステロイドを長期投与して維持する方法が最良と思われます。
その他の治療法や補助療法は何があ るの?
SLEを完治できる治療はありません。最近ではさまざまな多くの治療があ り、専門でない治療を行うにあたっては十分に注意する必要があります。もし小児の新しい治療をするときには、膠原病の専門医師に最初に相談するべきです。無害な物であ れば、ほとんどの医師は試みることに反対しないでしょう。多くのその他の治療は『身を清める』ために患者に薬を内服することを止めることを要求するという問題が生じます。ステロイドのような薬はSLEのコントロールに必要で、もし病気がなおっていても内服をやめるのはとても危険です。
定期的な検査をする必要はあ りますか?
しばしば受診することが重要です。SLEでおこるいろいろ症状が予防でき、とても簡単に症状がおさまります。SLEの子供さんの多くは、血圧・検尿・血算・血糖・凝固・抗DNA抗体を測ります。定期的な採血は骨髄によって作られる血液が少なくなっていないかを調べるために、免疫抑制剤の治療の後にも調べたほうがよいでしょう。SLEの子供さんにアドバイスをしてくれる先生(膠原病の専門医)がいたほうがいいでしょう。場合により他の人の意見も必要で、スキンケア(皮膚科)・血液疾患(血液専門医)・腎(腎専門医)・ソーシャルワーカー・心理士・栄養士などいろいろな専門医にコンサルトすることも必要です。
どのくらい病気はつづくの?
SLEは長い間続く病気で、増悪・改善を繰り返します。しばしば個人でどのような経過をたどるか予想が難しい。この病気は感染症などの症状がでたときなどにも増悪することがあ りますが、その後には病勢が落ち着きます。寛解するまでにどのくらいかかるか予測できませんし、寛解している期間がどのくらいかも予測できません。
予後は?
SLEの早期診断がつき、ステロイドや免疫抑制剤による早期治療を受けることによって劇的に寛解します。
子供のころにSLEを発症した患者の予後は良いです。にもかかわらず病気は進行し、生命を脅かすようになり、思春期や成人では病気の活動性が増してくることがあ ります。
子供のSLEの経過は臓器障害の程度できまります。重い腎障害や、中枢神経症状のあ る子供たちには積極的な治療が必要です。それに比べ、個人差はあるものの皮疹や関節炎は容易にコントロールできます。
完治するの?
もし、早期に診断され早い段階で適切な治療をうけたら大抵は症状も落ち着き、なおるでしょう。しかしSLEは予想がつかない慢性疾患なので、SLEの診断をうけた子供たちは普通は薬を飲みづけることが多いです。SLEが大人になるまでなおらず、大人の専門医にも診てもらわなければならないこともあ ります。
子供や家族の日常生活にどれほど影響をあ たえるの?
SLEの子供は比較的普通の生活を送ることができます。例外的に、日光にあ たるとそれが引き金となってSLEを悪化させることがあります。だから子供たちは日中海辺にも行けず、日蔭で座っていることしかできません。
10歳以上の年齢の子供には、治療がどれほど大切か・自分自身のケアがどれほど重要であ るかを本人にわかってもらうことが大切です。子供やその親は、症状が悪化する可能性をみきわめるために、SLEの症状を理解するべきです。病気が悪化した後に慢性的な疲労や気力不足などの症状が数ヶ月続いてしまうと、病気がなおらなくなる可能性があ ります。
これらの消耗性要素を考慮すべきであるが、子供たちはできるだけ周りの人たちとの活動に参加させてあ げるべきです。
学校生活は?
SLEの子供は病気が悪化している場合以外は、学校には出席してよいです。中枢神経症状がなければSLEの子供たちが学んだり考えたりする能力には影響を及ぼしません。中枢神経症状には集中力や記憶力が低下したり、頭痛、気分が変わりやすいなどがあ ります。このような場合には教育方針をあらかじめ決めておくべきです。
運動制限は?
すべての行動を慎んだりすることは不要で、あまりすすめられません。普通の運動は病気が落ち着いている間は行っても構いません。ウォーキング・水泳・サイクリング・エアロバイクなどがお薦めです。疲れすぎる運動は避けるべきです。病気の活動性があ る時は運動するべきではありません。
食生活は?
SLEを治療する特別な食事はありません。SLEの子供は、健康的でバランスのとれた食生活でなければなりません。もしステロイドを飲むなら高血圧を防ぐために塩分は控えめに、肥満を防ぐために砂糖は控えめにするよう心がける必要があ ります。さらに食事には骨粗鬆症を予防する補助としてカルシウム・ビタミンDなどを補わなければなりません。ビタミンを摂取することはSLEにおいて科学的に良いとされています。
気候は病気の経過に影響するの?
日光にあたることは新しい皮膚を発達させることに役立っていることはよく知られていますが、SLEの病気の活動性を悪化させてしまいま。これらの問題を取り除くために子供さんが外に出る時には日光にあ たる体の部分には日焼け止めを使うことをおすすめします。外にでる少なくとも30分前に日焼け止めを塗ることを忘れないで下さい。皮膚にしみこませ乾燥させて下さい。日中は日焼け止めは3時間おきに塗り直さなければなりません。水をはじく日焼け止めもあ りますが、お風呂や泳いだ後にはもう一度塗り直すことを勧めます。また、日焼けを防ぐツバの広い帽子や長袖の服を着ることもお勧めします。これは曇りの日も守って下さい。紫外線は曇りの日ほど強いといわれているからです。SLEの子供たちでは、蛍光灯・ハロゲンライト・コンピューターの画面などからも紫外線をあ びると言われています。紫外線を通さない画面はSLEの子供たちに有用といわれています。
予防接種はうけられるの?
SLEの子供たちは感染の危険性が高くなるので、免疫学的に感染を予防することは非常に重要です。もし可能ならば、普通通りの予防接種スケジュールを受けさせるべきです。例をあ げると、
・病気の活動性が非常に悪化しているときはどんな予防接種もしてはならない。
・免疫抑制剤やステロイドの治療を受けている子供たちは生ワクチンの注射をしてはならない。(はしか・おたふくかぜ・風疹ワクチン・経口ポリオワクチン、水ぼうそうワクチン)経口ポリオワクチンは免疫抑制療法をうけている子供たちと同居している家族も接種してはいけません。
肺炎球菌ワクチンはSLEや脾機能が低下している子供たちには勧められています。
性生活・妊娠・出生コントロールは?
SLEのたいていの女性は正常に妊娠し、健康な赤ちゃんを産みます。妊娠の時期としては一切薬を飲んでいない時か、少量のステロイドを飲んでいる状態で病気がおちついている時が良いです。(他の薬は赤ちゃんに害を与えてしまう可能性があ ります)SLEの女性は病気の活動性だけでなく、薬によっても妊娠することに悪影響がでる可能性があ ります。SLEは流産・早産、そして新生児ループスとよばれる先天奇形の子供を産む可能性があ ります。(付録2)抗リン脂質抗体は妊娠の問題にかかわりがあると考えられています。(付録1)
妊娠はそれ自体がSLEを悪化させる可能性があり、SLEの全ての妊娠した女性は、危険性の高い妊娠であ ることを良く知っていて、更に膠原病専門医に密接している産科医にみてもらうべきです。
SLEの女性が避妊をするために(コンドーム、ペッサリーなどの)バリアーや殺精子剤などがあ る。エストロゲンを含有する避妊用ピルはSLEの病勢を悪化させます。
付録1
抗リン脂質抗体
抗リン脂質は自分自身のリン脂質(細胞膜の一部)やリン脂質をつなげている蛋白に対する自己抗体です。抗リン脂質抗体は抗カルジオリピン抗体とループスアンチコアグラントという二つのものがよく知られています。抗リン脂質抗体はSLEの子供の50%くらいに見られますが、他の自己免疫疾患の子供たち、ウイルス感染症、少数の健常児にもみられることがあ ります。
これらの抗体を持っていると血管内で血が固まりやすくなる傾向にあ り、動脈塞栓・静脈塞栓・血小板数の低下(血小板減少症)・頭痛を伴う片頭痛などと関係があ るとされています。固まりやすい場所としては脳で、脳卒中を招きます。その他の場所として足の静脈や腎臓につまります。抗リン脂質抗体症候群は血栓がまねく病気で、抗リン脂質抗体陽性の場合におこります。
抗リン脂質抗体は特に妊娠中の女性に重要です。胎盤の機能にかかわるからです。血栓が胎盤の静脈にできると早期に流産がおこったり(自然流産)・胎児の成長が遅くなったり・子癇(妊娠中の高血圧)・死産をまねいたりします。抗リン脂質抗体をもつ女性は妊娠すること自体が困難なこともあ ります。
抗リン脂質抗体陽性の大抵の子供たちは血栓症を起こすことはない。このような子供たちには日頃 から予防をする必要があります。現在では抗リン脂質抗体をもった子供たちと自己免疫疾患をもつ子供たちに、少量のアスピリンを飲んでもらっています。アスピリンは血小板の粘性を低下させ、血液の固まりができる可能性を低くします。思春期での抗リン脂質抗体への重要な管理としては喫煙や経口避妊薬をさけることです。
抗リン脂質抗体症候群の診断が確定し、(血栓症を起こした子供には)主な治療として血液の粘性を薄くする。普通は抗凝固剤のワーファリンとよばれる薬を飲みます。毎日飲むことで、血液検査でワーファリンによってどの程度血液が薄まったかを確認する必要があ ります。抗凝固療法の期間は血栓の程度や重症度によります。
抗リン脂質抗体をもつ女性は流産を繰り返しますが、ワーファリンを飲んでいる女性は妊娠中に催奇形をおこす可能性があ ります。抗リン脂質抗体をもつ妊娠中の女性にはアスピリンやヘパリンを投与します。ヘパリンは妊娠中に皮下注射します。このような治療は産科医によって慎重に行われ、80%の女性が妊娠に成功しています。
付録2
新生児ループス
新生児ループスとは胎児や新生児において稀な病気で、母親の特異的自己抗体が胎盤を介して赤ちゃんが獲得する病気です。新生児ループスに関わっている特異的自己抗体とは抗SS-A/Ro抗体と抗SS-B/La抗体です。これらの抗体はSLEの3分の1の人にみられますが、これらの抗体をもったほとんどの母親は新生児ループスの赤ちゃんを産むわけではあ りません。一方では、新生児ループスはSLEでない母親の子供に生まれることもあ ります。
新生児ループスはSLEとは違います。ほとんどの症例では新生児ループスの症状は3‾6生月までしかみられず、後遺症も残しません。もっとも重要な症状は発疹で、生後2・3日目から数週間にかけ、特に日光にあ たった時にできます。新生児ループスの発疹は一時的で痕を残さずに治ります。
次に重要な症状は血球数の異常ですが、ひどくなることはめったになく、無治療で数週間で完治します。
非常にまれなものとしては先天性心ブロックと呼ばれる不整脈があります。先天性心ブロックの赤ちゃんは脈が異常に遅くなります。この奇形は一生つづき、しばしば妊娠15‾25週の時に胎児エコーによって診断されることがあ ります。いくつかのケースでは出生前に胎内で治療することもできます。出生後にこの病気のあ る赤ちゃんの多くはペースメーカーの挿入が必要となります。もし一人目のお子さんに心ブロックがあ れば、2番目のお子さんも10‾15%の確立で心ブロックが起こるでしょう。
新生児ループスの子供は普通に成長します。子供たちが将来にSLEになる確立はほとんどあ りません。
(訳:鹿児島大学小児科 荒田道子)
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